Introduction †
2010年6月23日(木)快晴。 「いつでも遊びに来てください」という古作研究員の優しいお言葉にそのまま甘え、 かねてからぜひとも訪問したかったアミューズメントの「殿堂」、大阪商業大学アミューズメント産業研究所を訪問しました。 古作研究員は、奨励会三段リーグに在籍した、将棋はプロ級の腕前の持ち主。週刊将棋、囲碁書籍の編集長を歴任、数々の将棋・囲碁番組で司会をしていらっしゃいます。 週末には東京でのアマ竜王戦全国大会(古作さんは奈良代表です)を控えたお忙しい中、大変ご丁寧に館内を案内してくれました。 余暇とは、本業以外で自分自身のために使うことのできる時間のこと。 大阪商業大学アミューズメント産業研究所は、この「余暇」:世界の遊び、人間の遊びに関する日本で初めての大学レベルでの研究機関だそうです。 展示室いっぱいのカラフルな展示品の数々、その豪華なこと、圧巻です。 今回は取材ということで撮影の許可をいただきましたので*1、写真*2を交えながら紹介したいと思います。 「世界のチェス・将棋展II」のあとということで*3、チェスとその仲間の展示が充実していました。 さまざまなゲーム †ゲームの歴史や文化背景など、パネルを使ってとても分かりやすく展示されています。
カードゲーム、双六などの展示も充実しています。 バックギャモンと双六とのつながりについて、分かりやすい解説がありました。 伝統ゲームだけでなく、現代のストラテジーゲームなどの展示もありました。軍人将棋は、昭和初期のものから館長らが遊んだ昭和40年代のものまで、懐かしいコレクションがそろっていました。戦時中のものは素材や作りに戦争の影が見えるなど、同じゲームでも時代を映しています。
囲碁 †囲碁の歴史は、チェスと比較してもずっと古く、(まあまあ)大きさのそろった身近にあった石と砕いた貝をそのまま使用した素朴な駒や紙製の盤が、その後、工芸品・芸術品として洗練されていった歴史が分かります。 展示されている「最古の面影…」の碁石は、制作年代不明だそうです。
将棋 †「トリビアの泉」でも紹介された大局将棋の大きな展示が目をひきます。 36マス×36マス、駒数804枚、盤上に駒を並べるだけで、2人がかりで1時間だそうです。番組でも検証されたように、あまりに大きいため、ゲームとして対戦するのは現実的ではなく、芸術・工芸品としての性格や、魔よけや占いなど宗教的なものだったと考えられます。 考案者は、駒の名前とそれぞれの動きを決めるだけでも、さぞ大変だったことでしょう。 おそらく世の中に数セットしかない貴重なものです。
インドからの盤と駒は、マドラスで作られ、インド政府から1964年に日本将棋連盟に寄贈されたものです。 駒は少し小ぶりですが、おそらく象牙製ではないでしょうか。また象が足となって支える盤の作りや細工も、実に美しく、特徴的です。 ダルマの駒は、成るときには、頭に成りの印を取り付けて区別します。珍しいスタイルですね。 三人将棋は、戦時中のものでしょうか、紙のボードに紙の駒を切り取って遊ぶようになっています。「国際三人将棋」*4というタイトルで、昭和8年に谷ヶ崎治助氏に発表よって発表されたものだそうです。駒も、通常の将棋と異なる「軍教」、「興論」、など駒があり、時代背景を反映しています。写真には写っていませんが、この右隣に四人将棋も展示されています。
現代チェスと将棋以外のチェスの仲間 †チェスの起源と考えられているチャトランガ?、アラブ諸国で流行したシャトランジ、それらが欧州に伝わって変遷したCourier Chess(クーリエチェス)、Lewis Chessmen(ルイスチェスの駒)まで、しっかりとチェスの歴史がわかります。 Chessの呼称をご覧いただくとわかりますが、同じ役割の駒でも、ビショップの駒が象、駱駝、根、銀となったり、ルークを城、船、車と呼ぶなど、地域の文化や重要な交通・物品が反映されています。 駒の造形についても、モスクや教会、寺院など、宗教的な意味合いを持った形状をした駒から、王、妃、馬他、具現的な形状のものなど様々です。 古作氏によると、一般にシャトランジなどイスラム圏の駒は、抽象的(偶像崇拝を禁止しているから)で、カトリック系キリスト教文化(こちらも本当は偶像崇拝禁止。でも、...詳しくは宗教改革と美術史をお調べください)や仏教圏の駒は具現的な駒になる傾向があると解説していただきました。
フィリピンのモロ島のチェス駒も複数展示されています。長年、この地域のチェスは他国から孤立していたため、駒の形がとても個性的です。Knightの駒が大きく形も特徴的で、神様のシンボルを模ったともいわれています。
タイやカンボジアなどで発展したマックルックと、オーク・シャトランジです。オーク・シャトランジは、マックルックと初期配置が同じようです。似たルールでプレーするのでしょうか。一般的なマックルックの駒は仏教寺院を模ったものが多いのですが、具現的なめずらしい駒も展示されています。 モンゴルのヒャーシャタル、シャタルのコレクションも充実しています。手作業で作った駒や盤は高価なものがほとんどです。特に大型のヒャーシャタルはめずらしく、海外ではあまり研究もされていないようで、岡野伸氏, 梅林勲氏ら日本の研究者の資料が貴重です。 シャンチー(象棋)やチャンギなどアジア諸国でそれぞれ発展したルールのものもたくさん展示されています。 フランク王国、シャルルマーニュ(カール大帝)をモチーフに、11世紀末から12世紀初めにイタリアで造られた駒(左の写真)は、ルイスの駒(右)よりも古いものですが。アラブ地域の駒のデザインの影響が強く、アラブ-ビザンチン-ヨーロッパ文化の混合した駒と言われています。 Lewis Chessmen(ルイスチェスの駒)は、1831年にスコットランドのルイス島で発見されたChessmenで、実物は大英博物館が所蔵しています。ヨーロッパの将棋がシャトランジ・スタイルから脱して間もない、12世紀頃に作られたため、「ヨーロッパで最古のChessmen」と考えられています。
ドイツでもChessは大流行しました。ドイツで流行った中世のチェスCourier Chessは、当館でも展示しています。
チェス・コレクション †現代の標準的なインターナショナル・チェスのルールで遊ぶさまざまなChessmenとボードのコレクションが展示されています。各国・地域の文化や歴史の特色を反映して、素材、形状が実にユニークです。
Chessmenの素材は、高級な木材、石、陶器、金属、動物の骨、象牙など、さまざまです。Chess Boardにも、木材はもちろん、石、陶器、螺鈿(らでん)細工のものなどがあります。
みやげものとして現在も作られている民族工芸品から歴史的にも価値のあるようなセットまで、さまざま展示されています。
アフリカで作られたChessmenは、動物を模したものが多く、デザインも大胆です。
イギリス、アメリカ、フランスの駒の形状には時代時代で、流行したスタイルがあります。
ロシアのチェス人気はご存知の通りで、多くのチェスチャンピオンもロシア(もしくは旧ソビエト)出身です。 ロシア製のチェス駒と盤は、素材もさまざま、色彩豊かなものが多く、チェスの人気と人々の情熱がうかがえます。
チェスのような...ゲーム †当館でも紹介していますが、Four-Handed Chessは18-19世紀に欧州で人気があり、同じころ、こちらも当館で展示している3 Man Chessがありました。当館で展示しているものは、円形のボード、もしくは三角形のボードで3人のプレイヤーのChessmenが隣接した形です。研究所には、この3人Chessの英国製のものとポーランド製のものが展示してありました。展示品を見ると、隣のプレイヤーとの間にもマスがあり、ボードの形状が六角形(人手のような形のものも同様に六角形とみなせます)です。
左は当館でもStrato Chessとして展示している3Dチェス(ルールは違うかもしれません)と、元NASA職員が考案したアリマ。右は当館でも展示しているSmessとAll the King's Men。
古作研究室 †古作さんの研究室にもお邪魔して、研究についてのお話をうかがいました。 思考ゲームと教育についての研究や、将棋のより広い普及を目指し幅広く研究されているとのことです。 目の不自由な方向けの試作品は、まだ研究段階とのことでしたが、さまざまな工夫がなされており、とても感心しました。 駒は指先で触って分かりやすいよう、大きな文字で彫ってあります。駒がずれないよう、マス目も彫り込んであります。マス目の形状も、長方形の枠の中で鼓型にしてあり、五角形の駒が置きやすいように工夫されています。駒台も、盤上の左右に彫り込んであり、互いの持ち駒が触って分かるようになっています。 トッププロを目指すためには、若いうち(10代まで)に、集中力をもってとても長い時間をそのゲームのプレイや鍛錬に時間を費やすことが必須の条件であるということが、ご自分自身、また周りの方々のたくさんの例を身近にみて分かっているそうです。 どんなに優れた才能があっても、長じてからどんな努力をされても、トッププロにはなれないそうです。 他のスポーツや言語の習得などと、共通の要素があるのかもしれません。 古作さんとのお話から、当館のテーマのひとつでもある、ゲームの流行やルールの伝播と、言葉の伝播との相関性を改めて考えさせられました。
将棋にはおよばないまでも、囲碁も「それなりの腕前」(ご本人の弁)らしいです。 「生涯を通じて頭脳スポーツに情熱を燃やし、指したら(打ったら)相当強い。」 アミューズメント産業研究所の研究員として、これ以上ふさわしい方もいないでしょう。 キンドラーとゴジベエ †当館の来館者なら、ペンローズタイルのことをご存じの方も多いかと思います。 イギリスの物理学者ロジャー・ペンローズが1972年に考案した、二種類のひし形図形によって非周期的平面充填ができるもので、マーチン・ガードナーの著述でもたびたび取り上げられています。また、近年の発見で中世イスラム建築にも同様な幾何学模様がみつかって話題になっています。 訪問前、出版されたばかりの「エッシャーとペンローズ・タイル」を読みました。
その中で、大阪商業大学で制作したキンドラーとゴジベエという、ペンローズ・タイルによるパズルがあるという記述があり、「ぜひ実物を見たい 著者の谷岡先生は、大阪商業大学の学長で、大のパズル・ゲーム好きとのこと。研究員の古作さんとは囲碁のライバル? なのだそうです。
Conclusion †国内で、これだけの品を一度に見られる機会はあまりないのではないでしょうか。 研究費、限られた予算の中で、いかに価値あるものを集めてくるか… もちろん、日本将棋連盟などからの寄贈や貸与によっても支えられていますが、 すばらしいコレクションです。 現地に足を運んだり、オークションで競り落としたり、時には自らレプリカを制作したりと、収集担当の方々のその苦労は大変なことと思います。 また、こうした事実を説明するにも、新発見があれば歴史が書き換えられてしまうこともたびたびで、追従するだけでもたいへんな労力が必要です。繰り返しになりますが、とても綺麗で、わかりやすく整理された展示室。研究所に関わる皆さんの、情熱が伝わってきました。 貴重なコレクションをたっぷり見せていただいたうえ、帰りにはおみやげにきれいなデザインのクリアケースもいただきました。大阪商業大学アミューズメント産業研究所のみなさん、ありがとうございました。
大阪商業大学アミューズメント産業研究所には、サイト上ではお伝えしきれない魅力がまだまだいっぱいです。 興味をもたれた方は、研究所から、参考文献/世界のチェス将棋展、参考文献/世界のチェス・将棋展II、参考文献/囲碁とその仲間たち展などの図録を購入することができます。 しかしなんと言っても、これだけの数の貴重なコレクションが一堂に会しているところにすごい価値があります。ぜひ一度、大阪商業大学アミューズメント産業研究所に足を運ばれ、大迫力の展示を堪能してください。 SEE ALSO †
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