2011年6月4日、大阪電気通信大学 総合情報学部デジタルゲーム学科 高見研究室が中心となって 「ゲーム学会 第5回ゲームとーくかふぇ」が大阪電気通信大学 駅前キャンパスにて開催されました。今回のテーマは、「泰将棋(たいしょうぎ)のデジタルボードゲーム」です。
アブストラクトゲーム博物館としては、この歴史的で長大なゲーム泰将棋をコンピュータ上に実現したと聞いて、取材しないわけにいきません。 「いざ大阪へ!」ということで、開催されたワークショップの状況を報告します。
高見先生に資料の説明を受ける館長
会場の大阪電気通信大学 駅前キャンパスは、京阪 寝屋川駅を降りるとすぐ眼の前に見える、近代的なガラス張りの建物。 梅雨の晴れ間の明るい日差しが射し込むきれいな教室で、まずは高見先生が、古文書を含めた貴重な資料を用いて、泰将棋の歴史やルールなどについて説明をしてくださいました。
泰将棋は、(諸説ありますが)1200年代に発祥したと考えられている古典将棋のひとつです。
資料の一つとしてコピーでみせていただいた"象棊纂図部類抄(1592年)*1"は、近代将棋駒のルーツ「水無瀬駒」の始として知られる、安土桃山時代の公家で能筆 権中納言兼成(水無瀬兼成)*2の手によるものです。 また"雑藝叢書第一(1915年)*3"には、泰将棋のユニークな駒々の名前と複雑な動きが、工夫を凝らしてひとつずつ図解されていました。 これら書物が著された当時においても、泰将棋は広く多くの人に遊ばれていたのではなく、限られた人たちによって大切に伝承されていたのではないか、と一般には推察されています。
高見先生は、"象棊纂図部類抄"の実物をご覧になり、その体裁や完成度のすばらしさに驚かれ、 "象棊纂図部類抄"の書き手の思いを察すると、実際にプレイすることを目的にしていたのではないかと感じられたそうです。
実際にプレイしてみよう
古将棋は、"象棋六種之図式"の中でも最も広い盤を使い、駒数も多い将棋の変形です。
25x25の盤に、先手後手それぞれ177枚の駒を配置してゲームを開始します。詳しい駒の働きや、配置については泰将棋のページに記述しますので、ここではデジタルボードとして実装された泰将棋の特徴的なルールのみを紹介します。
泰将棋の特徴
盤面の編集機能
今回展示された泰将棋のデジタルボードは、大阪電気通信大学 総合情報学部デジタルゲーム学科 高見研究室の飯田さん、大杉さん、葛原さん等が開発しました。Flex (ActionScript)で記述したプログラムのほとんどは飯田さんが担当されたとのことです。 高見研究室では、プロジェクタとレーザーセンサーを使って、床や大きなテーブルをゲームボードやコンピューターの入出力装置にする研究をしており、学術・産業界から高く評価されています。泰将棋のデジタルボードも、高見研究室のマルチタッチテーブルで動作する仕様ですが、今回は展示環境の都合で通常のLCDをテーブルに水平に置いたものを展示されていました。
高見先生の解説を聞いている間に、研究成果「泰将棋のデジタルボード」の準備ができたので、デモンストレーションと、学生さんたちを囲んでのディスカッションに入りました。
展示されたソフトウェアでは、人対人、人対AI、AI対AIが選択できます。 マウスオーバーした駒が、どのように動けるかガイダンスが表示されます。これは、泰将棋の複雑さゆえ最も重要な機能です。 泰将棋では、駒数が多いため自陣深くにある駒が戦場に出るまで多くの手数が必要です。そのためゲーム進行に時間がかかるのですが、本ボードでは初期配置に出場させる駒を選択できる機能があります。
高見先生によると、泰将棋のデジタルボードは、学生の卒業研究テーマとして、以下のようにいろいろおもしろいテーマを考えられるゲーム題材なのだそうです。
デバッグモードで、合法手数を確認
展示されたソフトウェアのAIは暫定的でとても単純な動作をします。
今後は、対人実戦やゲームの性質を研究する上でも、新しい仕組みを検討をしていかなければなりません。 泰将棋のAIの開発においては、少なくとも下記のようなゲームの特徴を考慮する必要があります。
ワークショップにおいても、実践すべきいくつかのアイディアが出されました。
展示されたAI同士の対戦は遠目に見ていると、とても高速に動き、その模様は25x25のマスはまるでライフゲームのようです。ライフゲームは、 決定的な状態遷移をしますので、初期配置が同じであれば同じように動きます。一般的なアブストラクトゲームは、非決定的なのでAIの手の選択に乱数要素が入っていれば、毎回違う動きを見ることができます。
研究室の皆さんと検討。右手前がデジタル泰将棋開発者の飯田聡さん。
泰将棋は、25x25という巨大なボード、片側177もの駒数、駒ごとのユニークな動きを初めとした複雑なゲームです。 盤前に座ったときは、「駒の動きさえもよく分からない状態で本当に遊べるのだろうか」、と疑心暗鬼でした。 しかし始めてみると、コンピューターのアシストのおかげで、これが意外にテンポよくゲームを進められることに驚きました。
すべての駒を使っての正式ルールでも、慣れてくればAI相手に40分くらいで遊べるそうです。 以前トリビアの泉で放映された実際にプロ棋士に大局将棋*9をプレイしてもらった事例では、数日かかって一局を指していました。これに比べると、駒盤のサイズは小さなものですが、コンピューターによる支援により、驚くほど短時間でプレイできるようになっています。
高見先生は、複雑なルールを段階的に覚えるため、駒の初期配置を段階的に変えて(双方駒落ち)プレイするなどが有効ではないかとのご意見でした。
触れてみるとまず、駒数の多いことを実感します。そして駒の名前が一つずつ非常にユニークなのです。 「うわ、歩がこんなにいる!動けんわ!」 「老鼠、って何?どんな動物?」「蟠蛇は、やっぱり、名前からしてあんまり進まんとちゃうかー」「臥龍 って何?龍がつくんは、強いんやろなー」「うっわー、自在天王、強すぎや!!!」「あれ、なにこれ、相手の駒取ったら、強制的に成るんか」「あ、成ったら弱なった、うそ、堪忍して!」…会場はたちまち、初心者プレイヤーたちの騒がしい歓声であふれました。
対戦したAIは積極的に攻めるプログラムではなく、「攻められたら逃げる」という消極的な動きで相手をしてくれます。そこで、戦略まではたたないまでも、まずは名前からして強そうな自駒の動きをチェックして、とにかく相手の自在天王、太子、醉象を倒しにかかります。 現代の将棋にはないアクロバティックな駒の動きに大興奮したのもつかの間、相手駒を取った途端に普通の「金」に成ってしまい、あ、しまった!ということもしばしばです。
実物を対戦してみた皆さんから、様々な意見を聞くことができました。
改善すべき点についてもアイディアが出されました。
AI, UIなど、さまざまな技術的な改善や今後の開発に向けて、館長からはZillions of Gamesや、 Abstract Strategy Games Onlineの技術情報(Abstract Strategy Games Online Project)を高見研究室の皆さんに紹介しました。
高見先生のお話では、 第6回 ゲームとーくかふぇでの展示、 ゲーム学会 夏の合同研究部会へのエントリーなどを計画中とのこと。 また、ABC 2011 summer(早稲田大学、2011年7月17日)のバザールにも出展予定だそうです。
今回は見ることができなかった、マルチタッチテーブルが楽しみです。 アブストラクトゲーム博物館では、泰将棋のデジタルボードの動向を見守って応援していこうと思います。