2009/7/9 にゲーム作家の山本光夫さんが、奥多摩のアトリエから、五反田の館長の オフィスまで、はるばる二時間以上かけて来ていただきました。 15時半ごろに到着、そこからなんと20時すぎまで、ゲームの話で盛り上がりました。
このページでは、その時にうかがったこと、ディスカッションの一部を紹介します。
このページに掲載しているゲーム、およびゲームの画像は、断りのない限り山本光夫氏の著作です。*1
株式会社ギフトボックス 代表取締役。装飾工芸家、タイル作家、ボードゲームクリエーター
1987年に株式会社ギフトボックスを設立、1990年に東京荻窪でアトリエ兼ギャラリ-GARAGE ART STUDIOをオープン 独特な造形のタイルをみるうち、タイルの美しさや機能を活かしたゲーム作りをはじめる。 最初の創作ゲームCIFRAを1994年に考案。以来多くのオリジナルゲームを作ってきた。 ギフトボックスが荻窪にあった当時は、地の利を生かして売り先の開拓、営業にも積極的に活動、東急ハンズ等の量販店にも卸していた。
1998年に奥多摩にアトリエを移転、ビジネスの中心をタイルの製作販売にシフト、ゲームの販路もWebとイベントを中心に移行。
現在は、商売の中心はタイルの製作販売だが、しばらく休止していたゲーム製作も再開し、「古代建築」をはじめ、ヒットを生んでいる。
山本さんの最初の創作ゲームはCIFRA。少し複雑だったルールを久しぶりに見直して、改良版ルールをリリースしました。 館長は、10年ほど前に東急ハンズでCIFRAを入手したのが、山本さんのゲームを知るきっかけになりました。
当日、初対面の当館スタッフに山本さんは、ゲームを持てるだけたくさん持ってきていただきました。
Logyは、山本さん考案の論理思考ゲームの総称です。
「飲みながら楽しく遊べるゲーム」が原点だそうです。 いずれも10~20分で決着がつくので、みんなでわいわい遊ぶのに向いています。*3
山本さんのゲームは、CIFRAに起源がある、ボードの変更が独創的です。 多くのChess Variantsでは、そのボードを変形したり、駒の初期配置の変更がモチーフになっています。 見かけは似ていても、プレーしてみると分かるのですが、たとえば、ChessではQueenの初期配置を変えただけで、ゲームプレイに大きな違いがでて、まったく別の戦略が必要な別のゲームになったりします。
山本さんのゲームは、それらVariantsとしてのエッセンスを最初からルールに内包しています。基本となるコアのルールは非常にシンプルでありながら、繰り返し遊びたくなる複雑さをたっぷりと含んでいるわけですね。
彼の多くのゲームでみられる、タイルを使った盤で、盤上のマス目を変更して遊ぶ、という発想がとてもユニークだと思ったのですが、タイルアーティストの山本さんとしては、ごく自然に「こうしたらおもしろいのではないか」と思ったそうです。CIFRAは、そうした発想から生まれたそうです。ボードを変更できるなど、一つアイディアがでると、アイディアがアイディアを生み出す、良いサイクルに入るのですね。
山本さんは、初めてのユーザーのハードルを下げることに、とにかく腐心していらっしゃいます*4。
彼は、定期的に井の頭公園などで自作ゲームのデモをしているのですが、道行く人にまず手にとって遊んでもらうためには、ルールがシンプルでとっつきやすいことが、必須条件で、自分のゲームを作る上での不文律にしているとのこと。
日本人の大人は、残念ながらなかなかゲームに手を出さず、遠巻きに見ているそうです。どうも、ゲームに負けるのを嫌う*5ようです。一方、子供は勇敢です。 それでも、難しそうなゲームには見向きもしません。
早い段階でゲームのできを評価する奥様は、「ゲームが嫌い」な厳しいモニター兼テスターです。少しでも複雑なルールや、長時間(20分以上!)のプレイを要するゲームは、遊んでくれないとのこと。また、完成作には厳しく美しさも要求されるそうです。
館長の場合、ソフトウェアでプロトタイプを作ってからゲームをデザインするので、 ルールそのものをどうおもしろくするかが重要であって、盤や駒の大きさや重さといった要素は存在しませんが、山本さんのゲーム製作は、色やデザイン、質感、重量感、盤に駒を置いたときの感触や音…盤・駒の重さや形状、素材抜きには始まりません。
新しいテーマにであったり、いいアイディアを思いついたら、すぐ手を動かして作ってみるのが山本流です。
アブストラクトゲームは、その名のとおり、もともと概念的・抽象的なゲームです。 山本さんは、その抽象的なゲームを作るうえで、ルールや駒の動きを直感的に表現する「メタファ」をとても大切にしていらっしゃると感じました。 ソフトウェアでゲームを表現するなら、駒の動きやルールなどを、プログラムの動作の中でガイドする手立てがいろいろとありますし、誰もが知っているようなゲームであれば、特段の工夫は必要ありませんが、はじめて触るゲームのボードと駒から(ルールの一部であっても)それを暗喩するようなデザインを、くどく、野暮にならないようにするには、豊かな発想と表現力が必要です。
山本さんのボードゲームは、質感や重厚感もすばらしく、少数生産の工芸品とも言えます。しかし、よりたくさんの人に楽しんでもらうためには、量産化も可能な「プロダクト」にできた方がよいのです。そのためには、製作手法や表現上の多くの制約、なかでも生産や流通に必要な「コスト」を無視することはできません。
現実的「コスト」の範囲内で、機能と美しさを追求した「メタファ」を具現化。 「課題(=お題)があると燃える」山本さんにとって、製作の苦労がそのまま、 ゲームのワクワクにつながっているようです。
将棋の女流棋士の北尾まどかさんから「将棋を外国の方々に分かりやすく紹介するためのボードと駒のデザインを考えて欲しい」との依頼を受けて、おしゃれで初めての方にも分かりやすいインターナショナル・デザインにチャレンジしていると聞きました。
製作にあたっては、成った後も含め、各駒のキャラクターによる動きのバリエーションの多さが初めての方にもハードルにならないよう、駒と盤のデザインに工夫をされたそうです。
将棋は、Chessや他の派生と比較しても、ユニークな五角形の駒形、それに引き換えシンプルな盤と文字が書いてある駒のデザイン、獲った駒を再利用できるというルールなど、特異性が強いゲームです。駒の意味を考えると、宝物(玉,金,銀,桂,香)をモチーフにした戦争ゲームなのでしょうか、Chessなどのように駒の形が直接的な意味を表しているのではなく、とても抽象的です。
館長の経験上も、海外の人に将棋のルールを伝える上で、ほとんどの人が将棋に対して、以下の違和感を抱きます。
これらの問題のうち、1と3は、駒や盤に工夫をすることで克服できます。山本さんの駒と盤のデザインは、これらの課題をクリアし、さらに用具に触れる独自の魅力を加えています。
山本さんのゲームは、伝統や固定観念にとらわれない一方、 プレーヤーに考案者が伝えたい、ルールや遊んだ印象の中でのきめ細かいメッセージを尊重する、良いバランスを大切にしています。 彼自身に、表現したいことが明確にあって、それをどうやって分かりやすくするかという、強い意志を感じます。将棋のデザインにも、そういった意志がはっきりと現れています。
つい最近、プロトタイプが完成したそうで、サイトをみた方々から、早速たくさんの問い合わせが来ているとのこと。今後の展開がとても楽しみです。
ゲーム作りには、まとまった時間も必要ですし、本業のタイルアート製作の傍ら、ゲーム作りは商売としてはなかなか難しいとのこと(当館も、そのことはよく知っています
)。
一方、山本さんは、考えることを仕事の柱にしていきたいのだそうです。しかし、考えるだけに、なかなかお客さんは付きにくく、商売にはなりにくい。ところが、ゲームという形でいくつかの考えるを具現化すると、ご自分のポートフォリオの一部として考えるを持ち歩くことができるようになったそうです。
ここしばらくは、不景気なことも幸い?して、また頭と手を動かすクリエイティブな作業をしてもいいと思われているので、たくさんのゲームが生まれてくるかもしれません。
手でこつこつ作るスタイルは、コストが高く、商売しにくいということです。
どうやったら、アブストラクトゲーム、ボードゲームのマーケットを拡げることができるか、よいゲームをよりたくさんのユーザーに知ってもらうためにはどうしたらよいのか、が長い間の悩みだそうで、この悩みは、館長等とも共通です。
山本さんのゲームは、手作りであること、タイル製であることで高くなりがちなので、機能性と美しさを追求しながら、いかに現実的なコスト内で商品として仕上げるか、ということが、日常的なチャレンジだそうです。 価格付けは、本当に悩みどころで、手作りの質の高いものであっても、こういったゲームは2,000~3,000円でも高いと感じる人が多いのだそうです。
ゲームマーケットや、井の頭公園などで、定期的にオリジナル・ゲームのデモや販売をおこなっているそうです。出張デモの依頼にも応じています。 こういったゲームは、ウェブ上やマニュアルの説明では、楽しさが伝わりません。やっぱり、触ってもらってなんぼ、ですよね。
日本ではボードゲームは、ビデオゲームに比べて人気が薄い、というのが現実です。
営業先のメーカーや販売店には「パズルならまだしも、こういうゲームは売れないからねぇ」というコメントをもらうことが多かったそうです。確かに、量販店やおもちゃ屋さんでの売場面積は、ビジネスの大きさを反映して、年々減ってきてしまっています。
だからこそ今、少しでも多くの人たちに、どうにかして出会ってもらうことが必要です。シンプルな中に戦略性の光る、秀逸なゲームたちに…
欧米では、日本に比べて、ボードゲーム市場がずっと元気です。 具体的なモチーフを持ったボードゲームに紛れて、アブストラクトゲームも評価されることもあります。そのためにも、英語版のページを作って、海外の人に認知してもらうのが第一歩ではないでしょうか。
海外のバイヤーやファンの目に触れるのが重要です。すぐれたアブストラクトゲーム、ボードゲームに贈られる賞を射止めるチャンスもあるかもしれません。
「ヨンモク」のPC版 山本さんオリジナルのボードゲーム「ヨンモク」を、ある大学の先生が気に入り(井の頭公園で出会ったそうです!)、PC版を開発してくださっているそうです。手で触ることができる盤と駒をもつゲームがデジタル化されると、同じゲームであるはずなのに、まるで違う印象になることは驚いたそうです。
私たちからは、オリジナル・ゲームを作るときなど、プログラムに落とすことで、ルールの矛盾やゲームプレイの深みなどを可視化できることの意義があることを感じています。また、でき上がったゲームを、文章でのルール説明なしで(=言語のハードルを越えて)、広く知ってもらうために、製品に添付したり、ウェブサイトでプレーできるゲームを公開したりすることが有効であることをお話しました。
ゲームをソフトウェア化して、知ってもらうためのツールとして製品のゲームに添付したり、オンラインで配布するのも良いと思います。また、当館の取り組みの一つでもある、研究などの題材としてあつかってもらえれば、たくさんの人たちに広く知ってもらうきっかけになるのではないかと思います。
当館ウェブサイトを通じて山本さんと出会い、初めてお会いして話をさせていただきました。
当館を立ち上げた目的のひとつである、 「アブストラクトゲームを愛する世界中の人たちとつながってゆきたい、 そのような人たちと一緒に活動したい」 という目的が早速1つ具現化したと感じました。
当館の立ち上げから、これほど早く、私たちにできないデザイン表現、考案したゲームを実体化してくれる人に出会えたことは、本当に幸運です。
当館のオリジナルゲームFlipFlopを早速タイルを使ってデザインしてくれました。
山本さんの、「遊んでもらうためにはとっつきやすく」という言葉は、広めるための苦労をした経験に基づいていて説得力がありました。 このことは、アブストラクトゲーム・マーケットの拡大、おもしろさとは一体何なのか、という課題とも根っこでつながっています。
アブストラクトゲームである限り、マーケットがニッチで、どうしたらたくさんの人に知ってもらえるか、という悩みは尽きません。 その悩みに対しての、私たちなりの答えが、当館の立ち上げでした。 山本さんとお話していて、アブストラクトゲームの、プログラミングやインターネットとの親和性を再確認しました。そして、やっぱり私たちのアプローチは間違っていないな、という自信を深めました。
海外への上手な情報発信とファンへのアプローチは、当館立ち上げ当時からの課題でもあり、今後山本さんにも協力していただければと考えています。
新作カードゲーム「猫町商会」をいただきました。山本さん、絵も描けるんですね。
山本さん、本当にありがとうございました。今度は、奥多摩の工房におじゃまさせてください!!